【 鰻 の 怪 】

 
●どんどん橋の老人

 本所に麦飯や奈良茶飯を売る商人がいた。
 ある日、その商人のもとへひとりの老人がやってきた。
 他に客がいるでもなく、ふたりは四方山話に花を咲かせていたが、そのうち釣りの話になった。
 それというのも、商人は大の釣り好きだったからだ。
 すると、突然老人は怒り出した。
「釣りをするなどとんでもない趣味だ。まして、川底の穴の中でひっそりと暮らしている鰻を捕るとは、何という非道な人だ」
 そう言って、老人は帰ってしまった。

 翌日、神田川のどんどん橋の近くで釣りを楽しんでいた商人は、一匹の大きな鰻を釣り上げた。
「これはまた大きなウナギだ」
 喜んでそれを持ち帰り、鰻を調理しようと腹を割くと、

──なんとそこには麦飯が詰まっていたという──。


 
●虎の門堀の人足

 虎の門のお堀を掃除する――いわゆる溝さらい――をするのに、人足たちを集めた老人がおりまして、 ある時、この老人がお堀の傍で昼寝をしていると、ひとりの若者がやってきて、老人のそばに腰を下ろした。
 その若者とは初めて会うように思ったが、人なつっこいその感じに、 老人は「たぶん自分の世話した男のひとりだろう」とひとり納得し、昼飯にと用意していた麦飯を振舞いながら世間話をした。
 そのうちに、若者は妙なことを言い出した。
「虎の門には主がいるのをご存知でしょうか?」
 男はそうきりだした。
 そんな話は聞いた事がないと、老人が答えると、
「虎の門の堀深くには、古くから住む大きな鰻がいるのです。 それはお堀の主なので、けっして捕ったりしてはいけません」
 それを言うと、若者はくれぐれもと念を押しつつ、どこへともなく消えていってしまった

 翌日、昨日の男の話が気掛かりで、老人は虎の門に様子を見に行った。
 すると、人足たちの人だかりができていた。
「何かあったのか」
 老人が尋ねると、人足たちはそれぞれ妙な顔をしながら答えた。
「それが、堀をさらっていたところ、鰻を捕まえましてね」
「これがまた大きな鰻で」
「そんで、まぁみんなで焼いて食ってたところなんで…」
「しかし、何だってこんなところに麦飯がつまってるんでしょうかねぇ」

 老人が慌てて覗き見ると、食いかけの鰻の腹から麦飯がこぼれていた――。


 妖怪の類も種類は多いが、「鰻」とゆーのは珍しいでしょう。
 それにしても、江戸といったら「穴子」でしょうと思っていたのだけど、「穴子」は近海魚で、 川ならやっぱり「鰻」で……うーーん、昔は「鰻」が捕れたのかぁと、ちょっと羨まく思ったりするわけで…。
 かの有名な『置いてけ堀』は、猫や狸の仕業とする説の他に、 堀にすむ魚の主(鳴き声のような快音を出す魚がいる)から発生した伝説とするものがあったりします。
 そうすると、「大ウナギ」が怪魚の一種とされても不思議ではない…かな。


TOPへ




100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!